宝玉農園 | 佐々木 義久さん

文:大内理加 (大内商店) / 写真:Shintaro Niimoto (studio SARA)


“こだわりのない男”が全霊を込めて育てる
甘くつややかな情熱の実をご賞味あれ!

宝玉農園
宝玉農園

生命力みなぎる果樹園に実るは“宝玉”
うきはの夏を代表するぶどうの作り手とは…

美しい緑に彩られた耳納連山の麓に広がる畑には「フルーツ王国 うきは」を象徴するさまざまな果実が四季を通じてたわわに実る。
その中でも、夏のうきはといえば、「ぶどう」が特に有名。今では次々と新しい品種が導入され、約40種も栽培されているという。
特に直売所で飛ぶように売れているのが、3色のぶどうが詰まった「宝玉農園」のギフトセットだ。
うきは産の中でも、特に大きく、はち切れんばかりに実った粒の一つ一つには、オーナーの佐々木さんの歴史と情熱が詰まっている。
 

2代目を継いですぐに訪れた大きな転機
最新の農業でピンチをチャンスに変えて

佐々木さんがお父様の後を継いだのは、約15年前。
まだ露地栽培の「巨峰」が主流だったが、他地域のフルーツに押され、少しずつ売り上げが減少。そして、ちょうどその頃、農家が作物に自分で値段をつけられる「道の駅」がオープンした。ピンチとチャンスが一緒になって訪れた。

それまでJAで技術開発や農業技術の向上に携わっていた佐々木さんは、「こうなったら数字になるぶどうを作ろう」と考えた。大量生産ではなく、上質な逸品を。価格は決して安くはないからこそ、贈答品として喜ばれるものを。

そこで、ぶどうの名産地・岡山と広島に飛び、大粒系の品種「ピオーネ」を導入。当時はまだ珍しい品種であり、甘みが強くタネが無い点もウケたのか、道の駅でも他の品種を押しのけてどんどん売れる。ただ、ギフトの需要が高まるお盆前に安定した数を出すには、路地ではなくハウス設備が必要だ。佐々木さん、今度は佐賀の農業試験場に飛び、「根域制限栽培」を導入した。これは、果樹1本ずつの根底にシートを敷き、根の成長をわざと制限して栄養を果実に留める方法で、旨味と糖度がアップするほか、色づきもより鮮やかになる。ハウス栽培なので、雨風や病気に左右されることもなく、農薬量も限りなく減った。うきはでも導入している農家は2件しかないという。

濃い紫色の「ピオーネ」は宝玉農園の主力商品。ピンポン玉ほどの大きさの粒が特徴で、甘みが強く食べごたえも抜群

皮まで食べられる「シャインマスカット」も人気。みずみずしい薄緑の粒を口に含めば、すっきりとした甘さの果汁がジュワッと溢れる

ハウス栽培がなんとか軌道に乗ってきた頃、売れ筋である黒紫色の「ピオーネ」に加え、皮ごと食べられる薄緑色の「シャインマスカット」、赤紫色の「クイーンニーナ」の3種類をセットにしたギフトを思いついた。ただし、ここからがまた大変。何しろ、3つとも色だけではなく、栽培方法もまるきり違うのだ。
「普通の農家はここまでやるのは難しいと思います。JA時代の仲間にも大丈夫か?と心配されたけんね。でも大変な分、この手間が商品の付加価値になるんです」
その言葉通り、3色ぶどうのギフトセットは市場でひときわ売れるヒット商品となった。

毎日畑でぶどうの木と向き合い、枝の色、身の大きさなどの変化に細かく気を配り、一年先を考えて手入れを施す。まるで子どもを育てるような根気のいる作業だ

思いついたら即実行が信条
実りのある情報収集で問題解決へ

大人気のぶどうギフトセットにも乗り越えなければならない問題は山ほどある。
その中で、佐々木さんのフットワークは驚くほど軽い。
例えば、クイーンニーナの実の色がうまく付かない、そんな時はすぐに鹿児島の試験場の担当者に電話をする。息子さん曰く「父はネットとか一切見ないんですよ。問題が見つかったら、まず人に電話して聞くんです」
佐々木さんも「ネットはね、こうしたらいいですは教えてくれるけど、これは絶対したらいけん事は書いていない。長年やってきた先生が言う『これはせんちゃいい』の方が確実です。それだけを守ったらいいですからね」と話してくれた。
「目で見る、話を聞く」を信じる佐々木さんは、どの若手農業従事者よりも動きは早く、しかも発想が柔軟だ。



家族でもあり、共同経営者でもある
佐々木家のカンパニー的ぶどう作り

「宝玉農園」は家族経営だ。けれどもその様子は一般的なイメージとはまるで違う。佐々木さん、奥さん、息子さんの3人がそれぞれ対等に意見を出し合いながら作業に取り組むのだ。
「1人で仕事をするなんて無理ですよ。3人いれば途中で1人抜けてもなんとかなる。だから、仕事の段取りを決める時は、まず家族でミーティングを開くんです。ぶどうの他に、カミさんが家族の行事の日程を出して、そこから作業行程を皆で決めて。畑の情報も共有できるし、その方が効率的でしょう」
息子さんは他の農園に2年研修に出た後に実家に戻ってきたが、その研修時代よりも今の方がはるかに企業的で無駄がないと言う。

家族3人で同時に作業は始まる

朝6時からの収穫作業

取材の日も、佐々木さんがぶどうの話を始めたと思うと、「まずは食べてから」と、奥さんが冷やしたシャインマスカットをすぐに持ってきてくださった。まさにあうんの呼吸

思い込みを外して、フラットに向き合う
普通じゃない農業でいつの日か傑作を生むために

佐々木さんの農業の根底には誰よりも人の話に耳を傾ける姿勢が見える。
「作り手はね、こだわりなんて言ってちゃダメなんですよ。こだわりなんて、思い込み、エゴなんですから。人の意見を聞きながら、自分で考えていかないと」
扱う品種を決める時、問題を解決する時、有識者や家族だけではなく、一般の人にも躊躇なく意見を聞く。違う視点を知る事で、アイデアも常に生まれるのだ。

「こないだね、肥料の業者さんにうちのぶどうは何点ね?って聞いたんですよ。そしたら、何点って言ったと思う?50点だって。まだまだだよね」
そう言って笑う佐々木さんの瞳は、朝露を受けたぶどうのように輝いていた。
きっと、どうやって100点を取るか、ワクワクしながら考えているに違いない。

「大工の棟梁さんがね、『仕事は段取りが八割』と言っとんしゃったですよ」など、佐々木さんは感銘を受けた言葉を引用しながら話す事が多い。聞いた事がまさに血となり肉となっているのだ

専用の道具たち

何か問題が起こった時は、家族会議ならぬ家族ミーティングで情報を共有し、アイデアを出し合う。3人が対等な関係で臨むからこそ最短で解決策が生まれるのだ

実の表面に浮いた白い粉は果実自体の旨みと新鮮さを表すもので、白粉が浮いているほど美味しい。佐々木さんのぶどうにもたくさん白粉が浮いている

見た目の美しさがお客様の喜びにも繋がるため、選定にも厳しい目を

選ばれた”粒ぞろい”の子供たち

その朝に収穫したものを選定し、毎朝8時には道の駅へ納品をしている

道の駅うきはで贈答用としてもパッケージで販売されている。商品の特徴を分かりやすく伝えるのはもちろん、「宝玉農園」の名前も覚えて欲しいと、ポップにも力を入れている