杉工場 | 杉 寛司さん

文:大内理加 (大内商店) / 写真:Shintaro Niimoto (studio SARA)


自由と情熱、そして信頼が生み出す
長く愛される“本物”の家具作り

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100年の時を経て受け継がれたのは
時代に合わせて挑戦を続けるスピリット

 100年もの年月を経て、濃い影が焼きついたような暗褐色の木材だけで組まれた古い倉庫。3棟の建物が連なる空間は、広々として重厚で、最初はちょっと圧倒されてしまう。そんな中を「杉工場」社長の杉さんは、スニーカーをスタイリッシュに履きこなし、飄々とした雰囲気でスイスイと入っていく。倉庫と杉さんは一見対照的な取り合わせのように見えて、不思議としっくりハマっている。
 まるでこの景色こそが老舗「杉工場」の今を表しているようだ。

長い歴史に敬意を払いながら、作り手への信頼と家具への情熱、使う人への想いを抱いて前進している「杉工場」。最先端のアパレルやインテリアショップともタッグを組んだり、アーティストとコラボレーションしたりと、その足取りはとても軽やかで、およそ老舗らしくない。その先に待つのはどんな驚きなのだろうか。

倉庫へ抜ける通路はほの暗く、ひんやりとしてどこかミステリアス。あちこちに当時使われていた計りなど、珍しい道具が残る
倉庫へ抜ける通路はほの暗く、ひんやりとしてどこかミステリアス。あちこちに当時使われていた計りなど、珍しい道具が残る

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倉庫の半分のスペースには新作の家具を置いていて、もう半分は改修工事中。100年前の建物と新作の家具は意外なほどマッチしている
倉庫の半分のスペースには新作の家具を置いていて、もう半分は改修工事中。100年前の建物と新作の家具は意外なほどマッチしている

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洋風トラス工法で組まれた工場跡地で
表情豊かな木の魅力を再発見

 最初に案内してもらった倉庫は昔工場として使われていた場所で、側面から天井まで見渡す限り木材でできている。
しかもログハウスのような丸太ではなく、細い角材を組み合わせた梁に木の板を貼り合わせた珍しい造り。
「床下を見ると柱が腐っていて、今までどうして倒れずに建っていたのか不思議なくらい。あ、あそこに眼鏡をかけている人がいるでしょう、あの人が棟梁さん。お〜い!ヤマサキくん!ちょっと説明してあげて」
 そう言うなり、杉さんは説明役をいきなりバトンタッチしてふらりと行ってしまった。
突然のご指名に戸惑いながらも棟梁さんが教えてくださったのは
「杉さんからはできるだけこの雰囲気を残したいと言われているんです。少し傾いた柱とか、窓の木造サッシにすりガラスとか。新築の建物では絶対に出せない感じでしょ。手を入れなくていいところはそのまま使います。昔の神社や寺、日本家屋は大きな丸太の梁を使っていますけど、ここは細い材木で組み上げる洋風トラスという工法を採用しています。これだと細い木で組み上がる。屋根が軽いトタンだった事もあって、ほぼそのままの形で100年残ったんです。こんなに大きなトラス組が残っているのは、この辺りでも珍しいですよ」

天井の梁に木材を三角形に組んだ洋風トラス工法。体育館など大型の木造建築に採用された工法で、現代の建築物にも採用されている
天井の梁に木材を三角形に組んだ洋風トラス工法。体育館など大型の木造建築に採用された工法で、現代の建築物にも採用されている

ヒノキの引き出しとオイル塗装
体にも優しいこだわりが人気の秘訣

いつの間にか倉庫に戻ってきた杉さんが、現在の工場を案内してくれた。現場では40名弱のスタッフが分業制で塗装、組み立てなどの行程に分かれて作業をしている。こちらでは一度入社した後、全ての行程を回って作業の流れを学ぶのだという。今は春先で子ども用学習デスクの最盛期で、1日に150〜170台を製作している。
「うちで作る家具の特徴は、必ず引き出しに国産のヒノキを使う。あとはオイル塗装。通常はウレタン塗装が普通なんですが、うちでは人体に優しい植物性オイルで塗装しています」
 そのこだわりは杉さんが身をもって味わった経験によるものだ。
「よその工場に見学に行った時、入って10分もせずに息が苦しくなったんです。子どもにはこんな経験をさせてはならないと思って、うちでは国産の木材とオイル塗料に変えました。特に塗装はウレタン塗料で肺をやられる職人も多かったからね。オイルに変えてからはマスクなしでも大丈夫です」

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国産ヒノキの引き出しは使うたびに清々しい香りに包まれる。より勉強がはかどりそう
国産ヒノキの引き出しは使うたびに清々しい香りに包まれる。より勉強がはかどりそう
組み立てや研磨などの作業はチームで分業するが、誰もが全体の流れを把握できるよう、一定のローテションで担当が変わる。前後の行程を受け持つ人への思いやりにもつながる
組み立てや研磨などの作業はチームで分業するが、誰もが全体の流れを把握できるよう、一定のローテションで担当が変わる。前後の行程を受け持つ人への思いやりにもつながる

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自分の中の理想と向き合いながら
一生モノの出会いを生み出す

 工場の中を歩くとヒノキの清々しい香りが漂ってくる。
「ヒノキも杉もきちんと手入れをされた山の木を買うようにしています。手入れされた山は、しっかり日光があたってCO2を吸収したいい木が育つ。カットされた木材の仕分けをしていると、その木の生い立ちまで分かるんですよ」
ヒノキが木材として使えるようになるまで約70年。人間と同じように手間をかけて育てられたヒノキは家具に形を変えても裏切らない。
「うちの学習机は、子どもたちが座る度に愛着が湧いて、長く大事に使われるような存在であってほしい。もちろん、学習机だけではなく、全ての家具に対してそう思っています。でもそれを実現するために僕が現場に入る事は無いし、具体的に指示する事もありません。ただきちっとしたものを作ろうと伝えるだけです」
社長からの指示はそれだけだ。あとは現場で働く一人一人が「長く使える家具」について、自分で考えて取り組まなければならない。
作業の一つ一つに家具と向き合う姿勢が試されるようで、厳しくもやりがいのある職場である。

学習デスクを購入する方が工場見学に来る事も多いそう。「うちの場合は宣伝してないのですが、工場を見に来てくれて納得されて購入するお客さんが宣伝してくれる」直に触れてみたい方はぜひ見学に出かけてみては?(工場見学は日曜休み)
学習デスクを購入する方が工場見学に来る事も多いそう。「うちの場合は宣伝してないのですが、工場を見に来てくれて納得されて購入するお客さんが宣伝してくれる」直に触れてみたい方はぜひ見学に出かけてみては?(工場見学は日曜休み)
工場の片隅には昔小学校で使われていた跳び箱が残されていた。ノスタルジックな想い出話も弾む
工場の片隅には昔小学校で使われていた跳び箱が残されていた。ノスタルジックな想い出話も弾む

社長の役目はスタッフが楽しく働ける環境作りと
理想の家具への熱い想いに火を点ける事

 杉さんがこの会社を継いだのは33年前。当時は家具が主流で学校用の備品も製作していたという。
「継いでからは戸惑いと挫折の連続。以前は家具屋とは全く違う業種だったから、家具屋のなんたるかを知っていれば帰ってこなかったかもしれない。最初はいろんなテキストを読んだり、現場を見に行ったりして、ああしよう、こうしようとスタッフに言ってきたけれど、口で指示するだけでは誰もついて来ない。
やっぱり働く側に『家具を作るのが楽しくてしょうがない』という情熱が無いと行動に繋がらないんですね。
とはいえ、40人いるスタッフ全員が燃えていなくてもいいんです。心底家具が好きで楽しく働いている人が1割くらいいれば、周りは自然と着いて行くから。そうすれば会社は黙っとっても周り出す。
 社長の役割はあれこれ言うのではなく、楽しく仕事をしてもらう事。自分が情熱を注げる“本物”の家具とはどんなものか気付いてもらう事。そのための土壌を整える事だと思っています」

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工場内の食堂スペース。昔使われていた学校用のデスクやベンチが設置されており、現役で活動している。この空間の補修や整備もスタッフが自主的に手がけるという。一日の仕事に安らぎをもたらす憩いの空間だ
工場内の食堂スペース。昔使われていた学校用のデスクやベンチが設置されており、現役で活動している。この空間の補修や整備もスタッフが自主的に手がけるという。一日の仕事に安らぎをもたらす憩いの空間だ
40年以上昔のテーブルは深い焦げ茶色に染まり、傷や色変わりさえも味があってとても格好いい
40年以上昔のテーブルは深い焦げ茶色に染まり、傷や色変わりさえも味があってとても格好いい

昭和の工法を取り入れてリメイク
生まれ変わった名作に宿る可能性

 試行錯誤を経て、今やっと本気で作りたいものに取り組める環境になったと話す杉さん。
「今は毎日がとても楽しいですね。それは僕が指示していなくても、スタッフが自分で計画してそれで会社が回っているから。問題があった時はどう対応すればいいか。自分が実際に使うならこのやり方で正解か、給料を上げたいと思うならどうすればいいか、各自で考えてもらう。スタッフにとっては大変だけど、自分たちでまかなっていける自信を付けて欲しいと思っています」
 立派な木材が育つ山のように、土壌を整えてスタッフの自主性を育てて来た杉さん。若いスタッフによるある試みも教えてくれた。
「接着剤も釘も使わずにビスだけで作られていた古い小学校の図書デスクをうちの若い連中が再現したものです。この脚の細さで全然ガタつきがないでしょう?これは昔の工法なのですが、素晴らしい技術です」
 ギャラリーの中央に鎮座したデスクは、まっさらな木の美しさが際立つ無駄のないフォルムが印象的で、使い込めばどんな色に染まるのか想像を掻き立てられる。昔の工法と今の技術、そして職人の情熱が込められたこのデスクの中に、杉工場の理想とする「生涯を共にできる家具」の形を見た。さあ、どんな風合いに育つだろうか。

昭和の工法でリメイクされたデスク。先端になるほどに細くなるが、ビスでしっかりと固定されているのでガタつきもない。少し低いが、スツールと合わせると落ちつく高さ
昭和の工法でリメイクされたデスク。先端になるほどに細くなるが、ビスでしっかりと固定されているのでガタつきもない。少し低いが、スツールと合わせると落ちつく高さ
杉工場企画部の皆さん。杉さんの奥様の良子さんと娘のアキノさん、大庭ヨシキさんの3人で商品開発やカタログ制作、ギャラリーの管理などまで担当している
杉工場企画部の皆さん。杉さんの奥様の良子さんと娘のアキノさん、大庭ヨシキさんの3人で商品開発やカタログ制作、ギャラリーの管理などまで担当している
工場入り口すぐには、以前コラボレーションした作家の作品を展示するギャラリー「SUGIKOUJOU SHOP」がある。ここは個人のお客様が入りやすいようにというアイデアから生まれた。「入り口が入りにくくって、ウロウロされる人が多いし、入ってみると器が多いので、何屋さんですかってよく聞かれます(笑)。気にせず入ってみてくださいね」
工場入り口すぐには、以前コラボレーションした作家の作品を展示するギャラリー「SUGIKOUJOU SHOP」がある。ここは個人のお客様が入りやすいようにというアイデアから生まれた。「入り口が入りにくくって、ウロウロされる人が多いし、入ってみると器が多いので、何屋さんですかってよく聞かれます(笑)。気にせず入ってみてくださいね」
ギャラリー内には端材も販売。「食パンの耳みたいな部分を集めて、100g50円で販売しています。質はいいものですし、木のためにも最後まで使ってあげたいなと思って。初めて2ヶ月くらいなんですけど結構人気ですね」
ギャラリー内には端材も販売。「食パンの耳みたいな部分を集めて、100g50円で販売しています。質はいいものですし、木のためにも最後まで使ってあげたいなと思って。初めて2ヶ月くらいなんですけど結構人気ですね」
ギャラリーの2階は会社の人もめったに立ち寄らない「開かずの間」だったそう。今はカフェになっていて、料理教室なども開催されているとか。よく見ると天井が釣り天井になっていたり、昔のテーブルが置いてあったりと見応えがある
ギャラリーの2階は会社の人もめったに立ち寄らない「開かずの間」だったそう。今はカフェになっていて、料理教室なども開催されているとか。よく見ると天井が釣り天井になっていたり、昔のテーブルが置いてあったりと見応えがある

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