静かなる花の求道者
アートが息づく愛され花屋の魅力

Case.33

杉聡彦さん
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花屋bezaleel
文:平田あやこ(INSIGHT PROMOTION)
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写真:Tatsuya Kawaguchi(QLOKO DE SIGN)

花屋の概念をくつがえす
喧騒とは無縁の別天地へようこそ

この先には、本当に花屋があるのだろうか。
初めて訪れる人であれば、そう思うに違いない。が、そんな心配は無用である。

控えめで小さな看板を頼りに小道をぐんぐん上っていくと、見えてくるのは周囲に溶け込むウッディな建物。先ほどまでの心のザワつきが、辿り着いた達成感と安堵感に変わる瞬間だ。

風がそよぐ香り、大地の香り、色彩を豊かに纏う耳納山の樹々の香り、そして小鳥のさえずり。心身が浄化される豊かな自然が、一面に広がっている。

ここがお目当の「花屋 bezaleel(ベザレル)」。

目の前を遮るものは何もない。
うきは市内を一望できるどころか、福岡と大分をまたがる英彦山までも見渡せる、まさに眺望絶佳!

「隠れ家的な山の上の花屋でしょ(笑)」

そう言って出迎えてくれたのは、店主の杉聡彦さんである。

「花屋 ベザレル」店主 杉 聡彦さん

「花屋を手伝ってみないか」
兄のひとことが、人生のターニングポイントに

元々この場所は、温室ハウスで薔薇の生産をしていた頃の作業場だったそう。
お母様が吉井の町なかで花屋を営んでいたが、ここに拠点を移してからは、聡彦さんのお兄さんが「植物制作場 ベザレル」と名を掲げ、引き継いだ。

大学卒業を機に「一緒にやらないか」と、兄から誘いを受け、流れに身を任せて進路を切った聡彦さん。
何を隠そう、兄の杉謙太郎さんは「いけばな」を軸とした「花会」を世界各地で開催し、独創的な世界観と型破りな表現力が高く評価されている花道家だ。
その兄を師と仰ぎ、約4年の歳月を修業にあてたという。

「兄の感性はいつも突き抜けていましたからね」と花道家・杉謙太郎さんをリスペクトする聡彦さん

「自分はこのまま兄のサポート役として、花屋に携わっていく人生を送るんだ、と勝手に将来を決めつけていたんですけど……」

のちに謙太郎さんが多忙を極めるようになり、弟の聡彦さんが「花屋 ベザレル」としてバトンを受け取ることになる。

「まさか花屋を継ぐことになるなんてね」

心に静けさをもたらす店内。大きく切り取られた窓からの風景に息を呑む

見惚れる美しさを解き放つ「ベザレル」の花たち
養われた審美眼と共に、感性が開花する

店内に鮮明な色合いの花は1本もない。
どれも渋みのある落ち着きを醸し、トーンを抑えた、色気を彷彿とさせるアンティーク調の花々。
聡彦さんの仕入れる花材の風合いに魅了され、一人、また一人、山の上の花屋を訪れる。

巧みに手を動かし、お客さんの要望に近づけていく姿はアーティスティックだ。
洗練されたトータルバランス、寒色系の特徴的な配色、細部に宿る美しさ。フラワーアーティストとしての自由な精神が脈打つ風合いに胸が高鳴る。

珍しい花材も揃う

くすみのある色合いが揃うのも「ベザレル」ならでは

生ける人、アレンジする人によって変貌を遂げる花々。
花という存在が、言葉では言い表せない、聡彦さんの奥に秘めた才能を開花させた。

「型にハマらない、固定概念に縛られない、自由に創作する兄の影響を無意識に受けているのかもしれませんね。皆さんに喜んでいただければ、それでいいんです」

アートな一面を楽しめる花屋があっていい
僕は自由人だから

店内を見渡せば、フラワーアレンジメントやリース、スワッグと並んで、聡彦さんが描いたイラストやモチーフなどのアート作品が展示されている。

「素材を切ったり貼ったりしていく中で、なんとなくイメージが見えてくる。でもやりながらあっちに行ったりこっちに行ったり(笑)。結果全然違ったものが出来上がったりなんてことも。思惑通りにならないことの方が多いんだけどね」

自分の心と向き合いたい時や気持ちの浮き沈みがある際に創作活動をしているという。
心のおもむくままに表現された作品の、メッセージ性を感じずにはいられない。

ますます「ベザレル」に、いや、聡彦さんに興味が湧いてくる。

笑顔満開!話に花が咲く、
これぞ杉流フラワーレッスン

彼にはもう一つの顔がある。

そう、フラワーレッスンにおいて「先生」という顔だ。

季節のリース、アレンジメント、花束、寄せ植え、苔玉、庭の植物を使ったテラリウムなど、毎月内容を変えて開催している。庭を散策しながらのレッスンもあるそうで、市街地では体験できない充足の時間が待っている。

グループレッスンやフリーのレッスンを毎月開催。与えられたテーマに沿うのではなく、主体性に任せるスタイル

この日は店の一角で、正月用のお飾りをアレンジするレッスンが行われていた。
個性を摘み取らないよう、自由に作品作りを楽しんでもらうそうだが、何より生徒さんの楽しそうな表情が印象的である。

ほんの少し手を加えるだけで、一段と華やかさが増してくる

レッスンの合間に先生との会話を楽しむ生徒さんたち。絶妙な掛け合いが繰り広げられる情景は微笑ましい

「切花、ドライフラワー、観葉植物、作品についてなど、何でも聞いてもらっていいですよ。プライベートのことなんかも、あ、それは冗談ね(笑)」

ユーモアと茶目っ気たっぷりのトーク、そして生徒さんの笑い声が耳納山を包み込み、あっという間に時間が過ぎていく。

「原点回帰」
自然と共生する中で、新たな花の楽しみ方を見い出したい

最近では「うきは観光みらいづくり公社」が主催するオーダーメイドのブライダルプランにおいて、会場装花を手がけたり、ワークショップの講師を任されたりと、地域のイベント・企画に参加する機会が増えているそうだ。

今後は店に隣接している庭、と言っても正確には広大な森だが、そこで息づく草花にクローズアップし、花の魅力、花のある暮らしを伝道していきたいと話す。自然豊かなうきはの地で、自然と共生している聡彦さんだからこそ、できること。

思い思いに散策を楽しめる「ベザレル」敷地内の庭園。お父様が植えた紅葉は、季節が巡るたびに色彩を豊かに纏う

愛でる花、伝える花、寄り添う花、潤す花。

決して特別な日に限らなくていい。
小さな花束だっていい。
一輪だっていい。

大切な人を想う気持ちを花に添えて……。

山の上の小さな花屋「ベザレル」からはじまる、幸せのストーリー。
あなたも紡いでみませんか。

長く楽しめるよう、ドライフラワーに仕立てたアレンジメントも人気

 

花屋 bezaleel(ベザレル)

福岡県うきは市吉井町鷹取1458-7
TEL:0943-76-5660(090-6290-9550)
営業時間:8:00~18:00(変更になる場合あり)
定休日:不定休

インスタグラム:https://www.instagram.com/bezaleel_flowershop/