旅人とうきはの人がつながる場所に
ゲストハウスFarolitoが目指す旅路とは

Case.24

八代 和也さん・谷川 加奈子さん
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Hostel & Cafe Farolito
文:大内理加 (大内商店)
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写真:Suzuki Akiko

オーナーの八代和也さんと谷川加奈子さん。お客さんが気軽に過ごせるようにのんびり接客できる場所にしたいと、ホテルではなくゲストハウスを選んだそう

オープンは緊急事態宣言中
懐かしくて新しい旅の宿

2020年の新型コロナの影響で、自由な旅ができない状況が続いている。世界中の人々が、旅先で素晴らしい光景や忘れられない人と出会う喜びに飢えているのではないだろうか。
毎年春休みや連休シーズンには賑わっていたうきは市も、今はひっそりとしている。緊急事態宣言中の夜は、メインストリートも真っ暗だ。
そんな状況下で、吉井町にゲストハウスが誕生した。宿の名前は、「Farolito」。
オーナーの八代和也さんと谷川加奈子さんが働いていたスペインでは、「灯台」、「街の灯り」という意味を持つそうだ。
ガラガラと引き戸を開けると、セピア色の照明にどこかホッとする。同時に個性的なインテリアが目に入り、非日常的なワクワク感も味わえる。
その中心にあるのは八代さんと谷川さんのゆるっとした笑顔。
気ままな旅が遠くなってしまった今、その温かさがことさらに沁みる。

カラーリングはメキシコの山あいの町で見た土壁の建物などをイメージ。テーブルは廃材を利用して自分たちで作ったそう。

不思議な調和を見せる
唯一無二のインテリア

ゲストハウス「Farolito」は、白壁の街並みで有名な吉井町にある。建物は大正時代に建てられた純和風の商家で、黄土色の珪藻土壁にコンクリート床の空間に、カウンターとテーブル席が配置されている。家具はシンプルなデザインながらも年季が入った木材やアイアンを使っていて存在感があり、レトロな照明やタイルのアクセントも効いている。スタイリッシュなようで、懐かしさもあり、エキゾチックで和の雰囲気も感じる。多彩なテイストが入り混じっている印象だが、調和しているのが不思議。何より、温かみがある。独特の空気感は、お二人が持つイメージそのものだ。
「せっかくこの建物なので、持ち味は生かしたい。それに自分達らしさも加えようと、外国で見た好みのテイストを取り入れました。老若男女誰でも居心地良く過ごせるように、なるべくとんがりすぎないデザインで。ごちゃ混ぜでどうなるか自分でも予想がつかなかったけど、まとまってよかったです(笑)」

イスのアイアン部分は田主丸で知り合った公園用遊具の会社「プレイグランドプロジェクト」から譲ってもらったもの。テーブルには鉄棒を利用している

この内観が出来上がる経緯もユニークで、建物の持ち主や施工した大工、谷川さんのお父様、以前働いていたプチホテルの常連客など、さまざまな人のアドバイスや技術が随所に生かされている。それも最初から計画したものではなく、工事中に向こうからの提案で追加されたものが多い。装飾やアイテムの一つ一つにエピソードがあって、嬉しそうに話す二人にこちらもニコニコしてしまう。

うきは市の自然と歴史、
人懐こさが出店の決め手

オープン前からさまざまな人が関わった「Farolito」。よほど強いコネクションがあるのかと思いきや、八代さんも谷川さんもうきは市に来たのはこれが初めてというから驚きだ。ゲストハウス担当の八代さんは、これまでにさまざまな宿泊施設でスタッフとして勤務。料理担当の谷川さんとはスペインで出会い、同じ施設で働いていたそう。おいしいご飯が楽しめるゲストハウスを二人で作りたいという夢を追いかけた二人は、どうして縁もゆかりもないこの土地を選んだのだろうか。

2階は客室になっていて、ドミトリーと個室があり。ベッドのフレームも全て特注。マットの寝心地にもこだわっていて、八代さんいわく「自分の家よりよく寝れます」とか。

八代さん
「最初は海外でゲストハウスを開くつもりだったんですが、一度ビザの更新で帰国することになったんです。その時に、そういえば日本で何もしていないなって思ったんです。日本に興味を持つ海外の方に何かお手伝いができたらという気持ちもありましたし。知り合いにお声がけいただいたのを機に、まずは僕が田主丸のプチホテルに勤めることになりました。そのうちお客さんが増えて、飲食店を併設することになって、谷川さんを呼びました」

谷川さん
「それで急に帰国することになったのですが、実は九州に行ったことがなかったんです。でも試しに何回か通ってみると、すごく住みやすくていい場所だと。そのまま独立する時も田主丸周辺を探したんですよ。あちこち巡る中で、歴史も自然もあるうきは市に決めました。この辺りは旅の中継地としてもちょうどいいところで、観光地というよりも、住んでいる人の息遣いが感じられるくらいの土地でしょう。外国の方もきっと好きだと思うんですよ」

八代さん
「それに、うきはの皆さんは初対面でもフレンドリー。工事中からいろいろと話しかけてくれるし、オープン後も食事に来てくれる方も多くて。観光客と地元の方が肩をくっつけて仲良くなってもらえるようなゲストハウスを目指していたので、そこもぴったりでした。実際に、ここで飲んでいた人同士で友達になることもしょっちゅうです。ゲストハウスに来てくれるのはもちろんだけど、『ここで会った〇〇さんに会いに来ました』と訪ねてくれるのも嬉しいものですよ」

生産者や地元の常連さんと
料理を通じた“ご近所付き合い”

緊急事態宣言中で空いた時間を利用してひたすらパンを焼いているという谷川さん。映画で見た「キューバサンド」を出したいと研究を重ねている。商品化が待ち遠しい

八代さんと谷川さんがうきは市に来て驚いたことがある。それは、現地の事業者がお互いの店を行き来したり、観光で訪れた人に他の店を紹介したりと、横のつながりを築いていることだ。適度な距離感を保ちながら皆で盛り上げようという姿勢は、他の土地では見たことのない光景だった。
「料理をする側だと、生産者との距離もすごく近い。いろんな情報をいただけるのがありがたいですよね。おいしい水もあるし、ご飯を炊くだけでも味が違う。料理するのがすごく楽しいんです」

ランチの人気メニューの一つ、「煮込みハンバーグ」。粗めの挽肉は噛むほどにジューシーで肉の旨みをガッツリ味わえる

もともとパティシエとして働いていた谷川さんだけに、スイーツのファンも多い。フルーツがてんこ盛りのクレープはうきはならではの一品 ※メニューは季節により異なる

そんな谷川さんが作るのは、煮込みハンバーグやカレーなどのランチとスイーツ、夜には旅先で味わった料理をアレンジしたものなど気まぐれで出すメニューも登場する。
「近所の常連さんがお皿だけ持ってきて、『夕飯の用意が面倒だから、ちょっと作って』なんて来てくれることもよくあります。鯛を頂いたけれど、どう料理したらいいかわからないって持ち込まれたり、逆に知り合いのうどん屋さんからって、いい出汁が出るエビの頭や殻を持ってきてくれたり。こういう付き合い方も地元では当たり前なのかしら。最初は、ここまで地元の人が関わってくれるなんて予想していなかったので、本当にラッキーでしたね」

現地の人と観光者、双方の視点から
うきは市の楽しみ方を提案したい

今では、久留米や日田など、少し離れた土地から通勤する人が飲んだ帰りに泊まったり、大雪の前日に前乗りしたり、観光以外でも利用されるようになった。遠方からワーケーションで訪れる人も多いという。
地域、年代、職種を問わずさまざまな人々が集う社交場のような存在になりつつある「Farolito」では、お客様にもっとうきは市を楽しんでもらいたいと考えている。

谷川さん
「うきは市は自然と街と文化が融合している街だと思うんです。しかも結構コンパクトだから周りやすいんですね。うちからお客さんをいろんなスポットに連れて行くとか、アクティビティを開発されている事業者さんと協力するとか、今まで築いたネットワークを使って、お客さんにいろんな遊び方を提案したいと思っています」

八代さん
「お客さんが見つけてくれたうきはの過ごし方も拾っていければいいよね。それに、観光だけではなく、地元の方とのつながりがいろんな事業にリンクすればいいですね」

カフェには観光の手助けになるよう市内の店やイベントのチラシを設置している。ちなみに、この棚は谷川さんのお父様が屋敷の古い階段をリメイクしたもの

うきは市で暮らす人々、観光客、ビジネスで訪れる人など、さまざまな人が行き交う旅の宿「Farolito」。ここで生まれた新しい出会いは、八代さんと谷川さんのアイデアの源にもなっている。ゲストとのふれあいを楽しみながらマイペースで進む二人の姿は、自由を謳歌する旅人のようだ。

コロナの影が消えたら、海外からの観光客もまた増えてくるだろう。
その時には、また「Farolito」らしい展開が待っているはず。旅の予定を立てるようなワクワクした気持ちで待っていたい。

【お店からのお知らせ】

店名:Hostel & Cafe Farolito(ファロリート)
Instagram:https://www.instagram.com/hostel_cafe_farolito/
FB:https://www.facebook.com/Hostelcafe-Farolito-100466871665174/
住所:福岡県うきは市吉井町1386
TEL:0943-73-7500(事前にお問い合わせください)
営業時間:カフェ11:00~22:00
チェックイン 16:00~22:00
チェックアウト 11:00まで
定休日:月曜