Case.21

株式会社 福岡電化商事 | 代表取締役 大神奈穂美さん(前編)

“働きやすい”から、“働きたい”会社へ
愛すべき女性社長が巻き起こす新たな風とは?(前編)
「うきはにおける女性の働き方のひとつとして」

文:大内理加 (大内商店) /
写真:Suzuki Akiko

中央が福岡電化商事の大神奈穂美さん。右側はご主人の大神幹夫さん、左側は牛島常務。牛島常務は義理の息子でもある

家族のような目線で
働くことの楽しさを伝えたい

うきは市でも名うての女社長と聞いて、少し緊張気味に「株式会社 福岡電化商事」へ。扉の向こうには、社長の大神奈穂美さんの底抜けに明るい笑い声と優しい眼差しが待っていた。取材の最中も30秒に1回は笑い声が入る。苦労話を聞いていたはずなのに、あんまり陽気なので、こちらまでつられて口元が上がってしまいそうになる。
「社員にもいろんな子がいるじゃないですか。一人ずつ性格や個性を見て指導すれば、仕事って面白いと感じてもらえるんじゃないかと思うんです。誰でも楽しくなければ仕事したくないでしょう?」
そう語ってくれた姿は、背中をそっと押してくれるような温もりと力強さがある。社長と言うよりも、まるでお母さんのような存在感。さまざまな業界から、「この人と一緒に働きたい」と人材が集まった理由は、こんなところにあるのかもしれない。

花も嵐も乗り越えて
ピンチを救ったのは人のつながり

奈穂美さんが「株式会社 福岡電化商事」の跡を継いだのは、2003年に初代であるお父様が亡くなられた時。電化工事の仕事だけなら2代目社長として働いてくれる人はいたものの、身内でなければ会社を継いでもらうことは難しい。そこで、二人姉妹の長女である奈穂美さんが会長として実家に戻ることを決意した。長年の夢だった幼稚園教諭としてのびのびと働いていた奈穂美さんにとって、まさに晴天の霹靂。まるきり知らない業界、仕事相手は子どもから大人、しかも幅広い年代の職人と相対することになったのだから、その苦労は計り知れない。

奈穂美さん
「イチから仕事のことも覚えんといかんし、まずは従業員と仲良くなろうと思ったんです。例えば朝掃除をしたりとか、新入社員になったつもりで働いていました。そうしたらベテランの職人さんたちも頑張ってるなと思ってくれたんでしょうね。少しずつ認めてくれたみたいです。若い世代に対しても、私自身が動かないとお手本にはならないから、今でも同じ目線を意識しています。若い子たちから『腰が痛いんでしょう?僕らが代わりますよ』なんて言われるから、掃除は遠慮気味ですけど。アッハッハ」
困難を笑い飛ばすような明るさとガッツで、職場でもなくてはならない存在になっていった奈穂美さんだが、就任後に会社のトップとしての壁に直面する。

奈穂美さん
「大きな危機はいくつかありましたね。最初は父の代から働いてくれていた職人さんが年齢的に厳しくなって、ごそっと辞めることになった時。今までは父と同じやり方だったから、新しい風を呼ぶにはそれもいいのかなと気持ちを切り替えたんですけどね」

世代交代に向けての覚悟は決まったものの、それまで営業を請け負ってくれた2代目社長まで退職することになると、ハウスメーカー以外の受注が激減。人手不足もあって、売り上げは通常の半分にまで落ち込んだ。それでも捨てる神があれば拾う神もある。業界内でも噂になるほどの状況だった福岡電化商事に入社を決めたのが、現在は常務として働く牛島英二さんだ。

牛島常務
「もともと福岡電化商事みたいな工事会社と取引をする会社にいたんです。転職を考えていた時に数社からお声がけをいただいて、その中でこちらの会社に決めました」

会社として“ドン底”の状態にも関わらず、入社を決めたその理由。それは、よく言えば将来性、でも正直なところは…

牛島常務
「社長を目の前にして言うのも失礼かもしれないですけど、従業員さんを生かしきれてないなと思ったんです。もっと上手に若い子たちを動かせば、みんなこの会社が楽しくなるのにもったいない。例えば営業の間口を広めて、自治体や個人のお客様とお仕事をさせていただくとか、試すべきことがまだまだある。そこで、自分にその役割をさせてほしいと話しました」

奈穂美さん
「うちはその時ハウスメーカーさんとしかやれてなかったんですけど、彼が来てくれて、営業先を広げようとみんなで一致団結したんですね。特に一番若い職員が頑張りますって言ってくれたので、士気も上がりまして。でも、それからちょっと地獄でしたよね(笑)」

牛島常務
「いやいや、“ちょっと”じゃなかったですよ」

奈穂美さん
「アッハッハッハ。そんな中で、うちの娘が彼を気に入りまして」

牛島常務
「その話はいいですよ!!」

奈穂美さん
「いいじゃないですか。会社のためにすごく頑張ってくれている姿を、うちの娘が見ていたらしくて。しっかりおさまってくれてね。うちの主人も安心してます(笑)。そんな話も入れていかないと面白くないでしょう」

普段は冷静に奈穂美さんにツッコミを入れる牛島社長。娘さんとの結婚は社長の名アシストもあって、“イケイケドンドン”でまとまったそう

奈穂美さん
「それにね、田中経理課長もそうなんです。幼稚園からの友達。新しく公共工事の入札も取りたいと思っていたのですが、手続きや経理のことが何も分からなくて、友達だった課長に来てよ〜って」

田中経理課長
「ここにお世話になる前、28年ほど建設業の会社に勤めていまして。私も次を考えてる時に社長に拾ってもらったんです」

奈穂美さんと田中経理課長は普段も“里美ちゃん”“なおみちゃん”と呼び合う仲。プライベートでは一緒に出かけることも多いという

奈穂美さん
「いやいや、困ってるなら来るよーって言ってくれたんですよ(笑)」

田中経理課長
「大神社長はこんな感じで、何事も明るく一生懸命。一番最初に『仕事も楽しまないと損よね』って言ってくださったことが今でも印象に残っています。女性目線だからか細かいところにすごく気が付くし、お世辞抜きに働きやすい会社です」

福岡電化商事の事務課の皆さん。小さな子どもを持つママさんも会社の保育所に預けて勤務している

柔らかい反骨精神で突き進む
社員の個性を生かす教育

奈穂美さんと従業員の皆さんの努力が実り、ようやく業績が回復してきた頃。気づけば平均年齢30代と、若い社員が活躍する会社に生まれ変わっていた。
そうなると、次に求められるのが“社員教育”だ。いまだに「見て覚えろ」が当たり前の厳しい業界。奈穂美さんは自身が異業種からの転身だった経験を生かして、独自の考えで社員教育に取り組んだ。

奈穂美さん
「父は昔ながらの職人気質だったんですよ。でも、世の中にはいろんな人がおるやろうと。例えばおっとりしてるタイプだと、ガミガミ言うと嫌になってしまうじゃないですか。それに失敗しても修正できれば、あまり厳しく言わなくてもいいと思うんですよ。もちろん、やってはいけない失敗は厳しく怒ります。でも、会社に来てくれた子は1人も落としたくない。今は常務が教育係になっていますが、認めてやってと言っています」

個性に寄り添うなんて根気のいるやり方は、幼稚園の先生だからこその発想かもしれない。同じ建設業界にとっては異端扱いされることも多かったそうだ。

奈穂美さん
「大手メーカーの仕事をする関係で、他の会社の社長さん達と集まることもあるんですけど、やっぱり言われますね。『甘いね』って。でも、甘いからって何が悪いのと。こちらが今の時代に合わせて変えないと、若い人は来ないんですから」

取材中もまるでお茶の間のような和やかなムード

意見を出しやすい環境で
仕事を“自分ごと”に

社員教育だけではなく、普段の仕事でも社員一人ひとりにしっかりと向き合うのが奈穂美さんのポリシー。週に一度の定例会議に加えて、問題が起こると即座に常務や現場課長、経理課長と会議を開く。物事は全て現場の声を拾ってから、会議によって決められる。

奈穂美さん
「やっぱり話し合いをしないと社内に正しく伝わらないし、考えが一つにまとまらないとうまく進まないんです」

牛島常務
「現場に行ってる職人たちにとっても、声を上げやすい環境ではあると思ってます。朝のミーティングでも、誰が上司かわからんような状態(笑)。
でも、彼らは現場で稼ぐ、社長や私たちは代わりに会社の方針を決める。お互い足りない部分を補い合っている関係がいいんです」

奈穂美さん
「私は、自分でできない事は、その道のプロに頼むというのがモットー。できないものはできない。だからいつも私ひらひらしてるって言われるんですけどね(笑)」
朗らかに話す奈穂美さんを静かに見守っていたご主人の大神幹夫さんが、万感の思いを込めて口を開いた。

大神幹夫さん
「でも、そういう時に人が集まってくれるっていうのはやっぱり人望があるって言うことじゃないかな」

奈穂美さん
「お父さん、どうしたと!?そんなこと初めて聞いた」

大神幹夫さん
「いやいや、本当よ!常務も経理課長も外から来てくれたんですけど、去年は銀行業界からうちに転職してくれた人もいるんですよ。今まで融資の話で来てくれた人が、いつの間にかうちの社員になってて。やっぱり社風というか、この会社が気に入って働きたいと思ってくれたそうですよ。なかなか人が来ない業種なのに、異業種から来てくれるのは魅力がある証拠なんじゃないですか」

大神幹夫さんは社長業に飛び込んだ奥様をサポートしつつ、併設する「クローバー保育園」の理事長を勤めている。少し距離を置いた立場で見ても、引き付けられるものがあるという。

大神幹夫さん
「私は、この会社の従業員でも何でもないんですけど、やっぱり外から見ていて雰囲気が良いんですよ。来る人来る人を笑顔でもてなしてくれる温かさがある。用はなくても、ちょっと立ち寄ろうかなという感じになりますね」

「今日はお父さんにステーキ出さな」なんて笑いに変えながらも、嬉しそうな奈穂美さん。
実は、3年前に従業員のことを考えて、「企業主導型保育事業」に乗り出した。それが先ほど話題に上がった「クローバー保育園」だ。
この保育事業をきっかけに、福岡電化商事にまた新たな風が吹いたという。
その続きは後編で詳しくお届けしよう。

【お店からのお知らせ】

設名:株式会社 福岡電化商事
住所:福岡県うきは市吉井町268-17
TEL:0943-75-2471

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