Case.23

株式会社 福岡電化商事 | 代表取締役 大神奈穂美さん(後編)

“働きやすい”から、“働きたい”会社へ
愛すべき女性社長が巻き起こす新たな風とは?(後編)
「うきは市における子育て環境」

文:大内理加 (大内商店) /
写真:Akiko Suzuki

長年温めていた夢が
企業変革のカギに

福岡電化商事の窓からも見えるほど近い「クローバー保育園」

福岡電化商事を継承しながらも、奈穂美さんには一つの夢があったという。
「本当はずっと子どもに関わる仕事をしたかったんですよ。父の会社を継いだ後もいつかは保育施設を作りたいと考えていたんです」
諦めずに持ち続けたその夢は、現在になって会社の未来とも、世の中の需要ともぴったりとマッチした。

奈穂美さん
「保育施設を作った直接的なきっかけは、うちの事務員さんに子どもが生まれたことですね。育休は一年あるけれども、その後に子育てしながら復職できるか心配していたんです。市の保育園があるけど、何かあった時にすぐに駆け付けられるよう職場の近くの方がいいですからね。そんな矢先に国の『企業指導型保育事業』と言うのを見つけまして。じゃあうちでもやろうかと」

『企業指導型保育事業』とは、待機児童の解消を図るための子育て支援制度の一つ。企業が従業員のための保育施設を設置する場合は国から助成金が出るほか、地域住民の子どもを受け入れることもできる。
市営の保育園や幼稚園とは窓口が異なる上、建物や児童の構成についても細かい規定があり、その手続きはかなり複雑だ。
県職員として働いていたご主人の大神幹夫さんが申請を担当。設立後は、理事長として「クローバー保育園」を見守っている。

幹夫さん
「いつか子供と関わる仕事をやりたいといつも妻が言っていたものですから。これは妻の夢を叶えるチャンスかなと、私にできることがあれば手伝いました」

奈穂美さん
「あら、なんか今日のお父さんステキ♡」

幹夫さん
「いやいや、本当ですよ。申請と言っても、パソコンを立ち上げるところから、何も知らないままやりましたけど。よかったら、保育園を見に行きますか?」

幼児教育のプロが集結
より質の高い保育を目指して

お昼時の園内。子どもたちに細かな目が行き届くよう、先生の人数も余裕を持っているそう

福岡電化商事を出てから、歩くこと約30mの距離に「クローバー保育園」がある。中に入れば、19名の園児たちはちょうどお昼前。
にぎやかな教室を奈穂美さんがヒョイっとのぞけば「社長さ〜ん!」「ちいちゃんばぁば」とかわいい声が飛んでくる。これまでより一層イキイキとした表情になった奈穂美さんは、あっという間に教室の中に飛びこんでしまった。
その様子をニコニコと眺めている平良園長は、幼稚園の設立に関わるなど幼児教育のプロ。19名の園児を見守る先生たちもまた、全員が10年以上のキャリアを持つという。
保育施設の人材不足が問題となっているうきは市では、「クローバー保育園」の環境は七不思議の一つとも言われているとか。その秘密を園長にこっそり聞いてみた。

平良園長と奈穂美さんはかれこれ30年のお付き合い。奈穂美さんが幼稚園実習に行った先が平良園長の勤務先だったそうで、その時からスカウトするつもりだったと茶目っけたっぷりに話してくれた

平良園長
「こんなに先生が揃った理由? もちろん大神社長の人柄ですよ。園で働く先生にも家庭の事情があるじゃないですか。例えば子どもが体調崩した時とか、ここは無理せず休んでいいよって言ってもらえるんです。それに、福利厚生もしっかりしている。大神社長は幼稚園教諭でいらしたから、こちらの立場もわかってくれるんですよ。子どもが大好きですし、本当は自分がしたいんじゃないかと思うくらいです(笑)」

奈穂美さん
「平良園長はすごい先生で、私が惚れてきてもらったんです」

平良園長
「言い過ぎ言い過ぎ。でも、この人についていくのは大変よ〜」

奈穂美さん
「あれもしたい、これもしたいって言うけんね」

平良園長
「言う言う!本当“お祭り女”。ここでちょっとした夏祭りをやろうって言ったら、
盛大にお店を出してね。人もいっぱいきたけんね」

まさに“あうんの呼吸”でポンポンと会話が弾む。お二人だけではなく、周囲の先生も皆さん明るい表情でイキイキと働いているのが印象的。開園して3年目になるが、退職者が出ないどころか、働きたいという就職希望者も増えているそう。ここでも「働くなら楽しくなきゃ」という大神社長の考えがしっかりと根付いている。

企業と保育所の相乗効果が示す
未来の企業へのヒント

「社長さん」「ちいちゃんばぁば」と呼ばれている奈穂美さん。お孫さんもこちらに通っている

昼休みに入った「クローバー保育園」からの帰り道、奈穂美さんも幹夫さん
もまるで園児たちから元気をもらったように足取りが軽い。

幹夫さん
「どうでした?雰囲気よかったでしょう?職員の方が笑顔で接してくれると子どもたちも笑顔になりますもんね。うちとしては、今くらいの規模で園児をカバーしていきたいと思っているんです。それに、質の高い教育にもこだわっています」

奈穂美さん
「そうそう。うちの園長は保育園と幼稚園どちらも経験があるので、どちらのいいところも取り入れたいんです。今は、英語教育や体育教室、リトミック体操も行っています。英語の先生も体操の先生も、私の知り合いから信頼のおける人をスカウトして。おかげさまで保護者の皆さんにも好評なんですよ。今後はうきは市の保育園や幼稚園と連携していきたいとも考えているんです。
もっと住みやすい街になって欲しいと思って、市内の保育の状況や教育についての情報を聞きに市役所にも通ってます」

幹夫さん
「それに企業指導型保育事業は複数の企業で共有することもできるんです。うちも企業の助けになればと、大手3社と地元の栗木生麺さんと提携しています。地元の待機児童の減少にもつながるし、企業さんも『託児所完備』と出せるから雇用のメリットも大きいんですよ」

これだけ力を入れているなら、保育園の売り上げも順調なのではと思うが、大神ご夫妻の意見は一致していた。納得のいく教育のために、儲け主義には走らないこと。実際、保育園で黒字が出ても全て先生に還元しているので、プラスマイナスゼロになるそうだ。独立した保育園ではまず難しい話だが、これも企業主導型保育所の強みでもある。ただし、利用する施設の子どもたちの年齢が上がれば助成金は減る。その時は環境を変えず、マイナス分は「工事でカバーする」と社内で決めている。

牛島常務
「会社の喫煙所が外にあるんですけど、天気がいい日に窓を開けるとお歌とか泣き声が聞こえてくるんです。これが皆の仕事の励みになっているんじゃないかな。地域の子供たちのために俺らは現場に行くんだって」

奈穂美さん
「負担をかけるのは申し訳ないけれど、従業員も子供たちの声を聞くのが楽しみって頑張ってくれてます。もう涙が出てくる…」

幹夫さん
「社員も、子どもたちも、地域の方も喜んでもらえたら嬉しいですよね」

奈穂美さんが巻き起こした風は、今や社外にまで吹き抜ける。
女性の雇用、人手不足、子育て支援などさまざまな課題のヒントをのせて、春風のように陽気に優しく。私たちに働くことの楽しみを教えてくれている。
改めて、奈穂美さんの元になぜこれほどの人材が集まるのか、その理由が分かった気がした。

【お店からのお知らせ】

<事業者情報>
設名:クローバー保育園
住所:福岡県うきは市吉井町343-16
TEL:0943-76-9095

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