フレッシュでいて、ジューシーで
うきはのフルーツみたいな存在感

Case.30

久次麻友さん
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カワセミデニッシュ
文:西村里美(H&Her.)
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写真:Suzuki Akiko

「うきはって、いろんな魅力があるまちです。暮らしている私たちが驚いてしまうほど。今、それをみなさんにお伝えしたい気持ちでいっぱいで」

久次麻友さんは、なんとも楽しそうに話す人だ。

幼い頃から当たり前にある風景も、蛇口をひねれば流れ出す天然水も、ご近所さんのおすそわけの柿やぶどうも。すべてが、うきはだけに存在するアイデンティティ。大人になってそう気づき、うきはをもっと深堀りしたくなった。

一度離れたからこそ、うきはの良さが鮮やかに浮かび上がって見える。発見した魅力をデニッシュに乗せて、みんなに届けたい。

ふるさとにUターンして
うきはのフルーツを伝える人に

うきは・吉井町のメインストリート国道210号線を歩くと、うきはの鳥・カワセミのブルーを白壁に効かせた古民家が見えてくる。麻友さんが店長をつとめる「カワセミデニッシュ」だ。

「カワセミデニッシュ」はうきはで生まれ育った麻友さんとお兄さんの海斗さんによるお店。アメリカ留学や福岡でのソムリエ修行を経て、うきはの魅力を再確認した海斗さんが、妹の麻友さんを店長にスカウトして2021年秋、オープンさせた。

「私はそれまで福岡市でバスガイドをしていました。大好きな仕事だったのですが、コロナ禍で思うように働けなくなって…。悩んでいた時にお兄ちゃんが『うきはのフルーツでデニッシュをつくろう!』と声をかけてくれました」

-吉井町の国道210号線沿い、昔からの趣を残しつつ改装された店舗-

小さな頃から尊敬していたお兄さんからの提案で、麻友さんの未来が、うきはのまちにUターン。紹介するものが観光スポットからフルーツに変わったけれど、誰かに何かの素晴らしさを伝えることには変わりない。コミュニケーションが大好きな麻友さんにぴったりのポジションだ。

「カワセミデニッシュ」の扉を開けると、いつも最高にフレッシュな麻友さんのスマイル。ハッピーオーラに包まれて、優しくて真っ直ぐなまなざし。こちらまで幸せ気分にしてくれる。キラキラと輝く麻友さんは、うきはのフルーツみたいな存在感だ。

-キラキラ笑顔の麻友さん-

うきはのフルーツの魅力を引き出し
サプライズのあるおいしさを

「カワセミデニッシュ」のレシピ監修は、パティシエの森山朋子さんにお願いした。シンガポールで“食べられるアート”をコンセプトに活動し、2013年から2年連続でアジア最優秀パティシエに選出されたジャニス・ウォン氏に師事された方だ。

海斗さんは、「うきはのフルーツはそのままでもおいしい。それをスイーツにしてお出しするのだから、想像以上の味わいやサプライズがあると、お客様にも農家さんにも喜んでもらえそうだなと。そこでアレンジの効いたクリームと組み合わせられるデニッシュでいこうと考えました。フルーツの盛り付け方も工夫できますし、デニッシュは何かと味わいの引き出しが多いんですよね」

「カワセミデニッシュ」ではフルーツに、スパイスや思いもよらない食材を組み合わせ、新しい魅力を引き出している。たとえば柿のように素直な味わいのフルーツには、味噌や白ごまのキャラメルカスタードなど変化のあるクリームを合わせた。キウイのデニッシュにオリーブオイルを添えたこともある。

本日のいちごのデニッシュはいちごの個性を活かすために“定番系”とのことだったが、桜あんやジャスミンの香りやローズゼリーなど、想像が広がる組み合わせで目移りさせてくれる。店内にはお皿に盛られたアシェットデセールを注文できるカフェスペースもある。



デニッシュにできるフルーツが80品種も
この宝に気づけたことがうれしい

幼い頃からいつも身近にあったうきはのフルーツ。だが、あらためて向きってみると驚きの連続だと麻友さんはいう。


-採れたてのうきは産いちごをたっぷり使ったデニッシュ-


「今、うきはで栽培されているフルーツが80品種もあるなんて、私は知りませんでした。ぶどうは49品種、ももは38品種、柿は16品種。ちゃんと味わいながら食べると、一つひとつ食感や香り、甘みの強さと、個性が違うことにも気づけますよ」

ほぼ1年中収穫できるうきはのフルーツだが、5月に入ると少なくなってくる。そんな時、麻友さんは思い切って休暇を取り、インプットの時間に当てている。「果樹園でお手伝いをさせてもらったり、関東・関西のスイーツを勉強させてもらいに行ったり。そこで得たものをまたお店に還元して、みなさんに伝えたいのです」。将来的にはレシピづくりにも少しずつ、麻友さんのアイデアを入れてみたいそうだ。

きれいな水が湧き出るうきはには
カワセミとおもしろい人が集まる

うきはは地元の方、移住者ふくめて「おもしろい人が多いよね」とよく言われるまちである。そんな話をしていたら海斗さんがぽつりと

「うきはって、水がいいからじゃないですか?」

 

遠くは阿蘇山を通り、山と大地に50年以上も磨かれた水がそこかしこからあふれる。ミネラルたっぷり、おいしくて安全性も確認されている地下水を、水道水として日常的に飲んでいる。実は、うきはは日本で唯一、上水道がない“水のまち”なのである。

「水がいいから食べ物がおいしい。人もうるおい、心にいい感じの余裕がある。だから、おもしろい人が増えるのかなと、僕は想定しています」

海斗さんは2023年春、「カワセミデニッシュ」の隣にポケットシーシャー(ニコチン・タールが含まれていない水タバコ)のバーをオープンさせるそうだ。

「軽くお酒を飲みながら、いろんなことを話せる、ちょっとしたスペースというイメージです。昼は絵本のお店やレンタルスペースにするかもしれません。うきはの新しいコミュニティになるといいな」

麻友さんもプランニングに長けて、行動力抜群のお兄さんをにこにこと見守っている。

 

海斗さんも麻友さんもうきはに暮らすおもしろい人のひとりであることに間違いはない。ふるさとの魅力を発掘する兄妹の冒険は、まだまだ続く。

【お店からのお知らせ】
●2023年春、熊本県の「夢大地グリーンバレー」にオープンするカフェ「リトルス」をプロデュース。
詳しくはInstagramで@littles_aso_greenvalleyにて。

<店舗情報>
カワセミデニッシュ
住所:福岡県うきは市吉井町1340
TEL:080-3182-7687
URL:https://www.instagram.com/kawasemidanish