Case.16

うきは 小塩の灯り | 大石純夫さん

情熱と地元愛が里山に明かりを灯す
真美野“コテージ”オブドリームス

文:大内理加 (大内商店) /
写真:Shintaro Niimoto (studio SARA)

里山にほのかに灯るコテージの明かりは「光る山里、かくれ別荘」のコピーそのまま。周辺の住民からは道路沿いに見える光にホッとするとの声も

のんびりとした里山の景色には
生まれて初めての衝撃が待っていた!?

大分県との県境の近くにある小塩地区真美野を訪れた事があるだろうか?
こんもりと生命力みなぎる山々を背景に、ゆるやかな丘陵に沿って果樹園や畑、そして民家がぽつぽつと広がる田園地帯で、梅雨時期には蛍の群生地としても有名だ。
青空を悠々と流れる雲の下、行き交う人々は和やかに挨拶を交わす。のどかな雰囲気も初めて訪れた人を温かい気持ちにさせてくれる。
ところが、そんな景色を目の当たりにして人生を変えてしまうほどの決断をした人がいる。のちに、うきは市では珍しい宿泊施設「うきは 小塩の灯り」をオープンさせることになる大石純夫さんだ。
「変な話ですけど、雷に打たれたようなショックでした。60年生きてきて、こんなのは初めてです」

大石さんが梨畑の光景を見た後、家に戻ってそのまま描き上げた絵。後から見直すと山の形などがほぼ一致しているというから、よほど強く心に焼きついたのだろう

 

原動力は“うきはへの恩返し”
偶然の積み重ねで引き寄せた新たなスタートへ

銀行員として30年以上務めあげた後、今は久留米市のビル賃貸会社に籍を置く大石さん。長年のサラリーマン生活は楽しくやりがいもあったが、いつかは自分の思い通りになる事業を立ち上げてみたいと考えていたという。そこで目にしたのが、官民一体で地方活性化を促す「うきは市ルネッサンス戦略」。大石さんはこの要綱を熟読し、観光誘致事業に着目した。それまで縁もゆかりも無かったうきは市を新たなスタートに選んだのは、こんな経緯がある。

「最初のきっかけは、うきは市が公募した太陽光発電事業です。関東の大手企業など10数社が参加したプレゼンで私どもの会社を選んでもらったのが嬉しくて、いつかうきは市に恩返しができたらと考えていたんです。その仕事で真美野を訪れた時に目にした梨畑の風景に衝撃を受けまして、私が事業を起こすならここしかないと。そのまますぐに不動産会社を訪れたら、たまたまその日に出したばかりという物件に出会いまして、もう即決です」

様々なチャンスに背中を押されてたどり着いた小塩地区には、新たな喜びが待ち受けていた。

コテージから歩いて10分の距離には「小塩ほたるの里広場」もあり、泊まりがけで来た家族連れのお客様の遊び場にもなっている。公園のすぐ横の澄み渡った川にはシーズンになるとたくさんのホタルが舞う。園内ではキャンプ場としてバーベキューなどもできる

農業を生業とする働き方に感動、
小塩の人々との交流が育んだ思いを形に!

物件が決まったものの、まだこの地域についての知識は無く、何をどう始めるか全く検討がつかない。思い悩みながら現地を歩いていると、不意に住民に声をかけられた。「どうしたんですか?何か手伝いましょうか?と話しかけてくれたんです。その人は他の土地から移住してきた方だそうですが、そこから自治協議会の役員さん、区長さん、佐藤つつじ園の園長さんなど色々な方とつながってお話を聞きました。銀行時代、農業者の方とゆっくりおつきあいした事はなかったんですが、やっぱり皆さん事業主なんですね。農業は生き物相手ですから、365日畑と向き合って一生懸命に働いていらっしゃる。どこからあんな力が湧いて来るのだろう。私なんかまだまだだと元気が出ました。うきは市の魅力は、自然とか文化とかおっしゃいますけど、やっぱり人なんですよ」偶然がもたらした新たな出会いによって小塩への愛着がますます深まり、この地の魅力を感じて欲しいという思いでコテージの構想を着々と進めた。

親の代からのサラリーマン家系で土をいじるのはほとんど初体験だったという大石さん。偉大なる先人の協力もあり、今ではコテージの前の畑でサツマイモやエンドウ豆、スイカなどを栽培するほどに

大石さんは真美野にも約一反の蕎麦畑を持つ。「真美野はうきはに残された最後の丘陵地なんですよ。せっかくご先祖様が開墾された地ですから、蕎麦の花が咲く素敵な丘陵地になればいいなと思って。でも、自己完結するのではなく地域振興に役立てる事が目標なので、蕎麦が美味しくなければ次の手を考えます」

 

「お客様は神様なんです」
神様に教えられながら、オンリーワンの宿を目指す

2017年3月17日にコテージ「うきは 小塩の灯り」をオープンしてからも毎日が驚きの連続だった。「最初は都会の離れの宿みたいな感じで、仕事に疲れた方が静かに過ごすというイメージを抱いていたのですが、フタを開けると小学生くらいの子どもさんがいるお友達グループや女子会でのご利用がかなり多かったですね。おもてなし用にうきは産最上級のお茶を置いてみたけど、全く減らない(笑)。でも、やっぱり“お客様は神様”ですから、神様の声を聞きながらバーベキューや鍋プランなども用意しました」。今では福岡都市圏からネット予約で来る方が多く、オープンして半年ですでに2回来られた常連もちらほら。ホテルや旅館業界でのリピーター周期は3年ごとと言われる中で、近場で気軽に里山を味わえるコテージは観光業にも新たな可能性を示しているようだ。

古民家のリノベーションは、都市圏から女性客を呼びたいとの意向から福岡市の女性デザイナーに頼んだ。唯一大石さんがこだわったのは、うきは市の特産物である柿の色。目印である看板に採用され、訪れる人が元気になるようにとの思いも込められている

カラフルでスタイリッシュな内観に驚く。若いママさんにも「おしゃれできれい、子連れでも利用しやすい」と評判は上々。オーディオやプロジェクターを完備しているほか、バスルームでは里山の景色を眺めながらジェットバスが楽しめる

寝室側の窓には棚田の石垣や石像をそのまま残し、まるで一枚絵のような風景を再現

 

忙しくも充実した日々を迎える中で
一番恐れるのは、立ち止まる事

今ではコテージ運営を続けながら真美野でそばを栽培するほか、野菜なども育てている。さらには、独学で絵や詩をたしなむ。実に多忙な大石さんが抱える悩みはなんとも贅沢なものだ。

「一番怖いのは興味が無くなること。他にやりたい事が浮かんじゃったら、もう興味はそっちに行ってしまう。今、うきは市でミニトマトの事業にも着手していて、大きなハウスも建設中ですし、他にも色々とやりたい事があるんです」

自分の思う通りに行動する、サラリーマン時代とは全く異なる生き方が叶ったからこそのひと言がとてもまぶしくて、こちらもポッと情熱の明かりを灯されたような気がした。

「ウッドデッキは必ず作りたかった。小塩でもこんなに幅広い景観が楽しめる建物はそうないんじゃないかな。食事しながら見る景色は最高ですね」予約が無い時は近所の人とウッドデッキでついつい話し込む事も多いとか

大石さんが師と仰ぐ佐藤先生曰く、小塩はうきは界隈でもっとも多く人が住んでいたそう。「この土地には万人が感じる魅力があるんでしょうね。蕎麦にしても宿にしても、そういう魅力を他の地域の人に感じてほしいです」

 

<店舗情報>

施設名:うきは 小塩の灯り(こじおのあかり)
住所:福岡県うきは市浮羽町小塩2158-2
TEL:0943-77-2277
営業時間・休館日:メール(info@ukiha-kojionoakari.com)から問い合わせを
WEB:https://ukiha-kojionoakari.com

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