「おいしい!」が、笑顔を生み出す。

Case.2

國武修一さん
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パティスリー・ナチュール
文:高木亜希子 (あきこ商店)
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写真:KOZI Hayakawa (CUBE ART LAB.)

「ケーキ屋になりたい。」きっと、若い頃に憧れた方も多いのではないでしょうか? 自らの手で作り出したケーキが食べた人の笑顔を生み出す、とても素敵な仕事だと思います。
今回は、学生の頃に抱いた夢を叶えた男性パティシエ、パティスリーナチュール・國武さんへのインタビュー、始まりです。

少し緊張気味の國武さん

國武さん、「僕で大丈夫ですか?緊張しています!」とほんの少し照れ笑い。
訥々とした口調で、高校生の頃にパティシエを目指したきっかけを話し始めてくれました。

「高校生の頃に、友達の誕生日にみんなでケーキを作った事があります。自分たちで飾りつけをしたりして。そうしたら、友達がすごく喜んでくれて。良いなぁと思いました。その時に、ケーキ屋になりたいって思ったんですね。人を笑顔にする仕事だなぁと。」

ケーキ屋さん=パティシエの仕事に目覚めた瞬間でした。その時、高校3年生。ちょうど進路を考える時期でした。うきは市内で現在も果樹農園を営むお父さんに相談したところ、こころよく、その夢を後押ししてもらいました。お父さんのつてを頼り、福岡市にあるケーキ屋で体験させてもらう機会を得たのです。

「高校3年だと自由登校の時期がありますよね。その時に、毎朝5時台の高速バスに乗って、福岡のケーキ屋で働かさせてもらいました。殆ど下働きでしたけど、もう一生懸命でした。自分は器用な方じゃないから、とにかくやるしかないって思って。そうしたら、オーナーさんが認めてくれたのか、ケーキの専門的な事は全く勉強してなかったですけど、卒業したら来いって採用してもらえたんです。3月が卒業式、でその翌日の卒業旅行・・・その次の日だから、卒業して2日目には働き始めてました。」

ケーキ屋さんと言えば、外から見ると「おいしくてキラキラしたものを作る、憧れの仕事」です。けれど実際は、朝早くから仕込みをして、重たい材料を運んで。クリスマスやバレンタインなど行事があると、それこそ深夜まで寝る間も惜しんで働く、とても体力のいる仕事です。夢をかなえてケーキ屋さんに入ったものの、独立するまで続けられずに辞めてしまう人も少なくないと聞きます。

「自分は、本当に不器用な方で、センスがあるわけでもありません。だから、とにかく人よりも頑張らないといけないと思って、とにかく努力しました。親にも応援してもらって、自分の道を選ばせてもらったんだから、頑張らなきゃなーと思って。」

修行の頃を思い返して

高校を卒業して就職したケーキ屋で毎日忙しく働いていた國武さんですが、転機が訪れます。妻との結婚、そして2人の男の子の誕生です。

農家の息子としてのびのび育った國武さん、ある時、「このままこのアパートの中で息子たちを育てて行っていいのかなぁ?」と疑問を覚えたのだそうです。街中の公園はあるけれど、自然に触れ合う機会がなかなか持てない子どもたち。「息子たちに故郷と呼べる環境を作ってあげたい」と一念発起、自らの故郷である「うきは市でケーキ屋を開きたい!」と考えるようになったのです。「子育てはのびのびと暮らせるところでという考えに、大分・玖珠育ちの妻も賛同してくれました。」と語った國武さん。夫婦で力をあわせ、うきはでの開業に向けた挑戦が始まりました。

支えてくれる人たちへ、感謝の気持ちで。

とは言え、故郷を離れ、10年以上ケーキ屋さんで1パティシエとしてひたむきに働いていた國武さん、経営や開業については未知数で、「ケーキ屋を開く!」と決意はしたものの、資金調達・物件・宣伝・・・色々な課題が出てきました。すると、またもや國武さんの夢を応援し続けてくれているお父さん、そして周囲の知人・友人がサポートしてくれたのだそう。

「今、このお店がある土地のことも、父の知人から口コミで教えてもらいました。バイパスからすぐで、小学校も目と鼻の先。自分だけでは見つけるのも厳しかったと思います。それに資金調達もです。開業資金に関して、知人の紹介でつながった地元の信用金庫さんがすごく力になってくれました。」

ケーキ屋と言えば、業務用の大きなオーブン。その他の設備を揃えるのも一大事

土地の取得や資金調達以外にも、勤めていたお店のオーナーや、書類手続きでお世話になった社労士さん、そして業務用設備諸々でお世話になった業者さん、友達からも、オープンに向けて色々なアドバイスをもらいました。
「本当にみなさんがいなければ、オープン出来ていなかったと思います。感謝しかないです。」

諸々の課題を乗り越え迎えたオープン初日、「パティスリーナチュール」は折込広告などを出しませんでした。
「ケーキ屋のオープンって事で、一気に来ていただくと嬉しいけれど、きちんとした接客がおろそかになってしまう。そのかわり、丁寧に1人1人のお客様に向き合ってきちんと接客しよう。」と考えての決断だったそう。とは言え、お知り合いやご近所など大勢の方が入れ代わり立ち代わり真新しいお店にやって来られたそうです。

「1日中いろんなお客様が来て下さって・・・その初日を無事に終えられた事が、とても嬉しかったです。」

そうしたオープンから3年、國武さんが大切にしてきたのは、「目の前のその1人のお客様に感動してもらえるかどうか」です。お客様に嬉しい笑顔で気持ち良く帰っていただけるように、「おかげさまの心」「感謝の心」で日々のケーキ作り、お店作りに向き合っています。

お客様が笑顔になる、そんな店づくりを目指している

「仕事は力仕事も多いから、毎日を愉快に楽しくというわけにはいきません。クリスマス前とかピークの時は、本当に早朝から夜遅くまでかかってやらないと終わらないような時もあります。だけど、スタッフみんなで周りの人に感謝しながら働いていきたいと思ってます。ただ良いものを作ればいいではなくて、おかげさまの心を忘れたら成長はそこでおしまいです。やっぱり周りの人たちに色々なことを教えてもらっています。そういう皆さんからの教えを大切にしたいです。」

ご存じの方も多いかと思いますが、うきは市はかなりのスイーツ激戦区。こわさはないのでしょうか?

「危機感はいつも持っています。ケーキはやっぱりごはんみたいに毎日食べなければいけないものじゃないし、自分は技術が特別優れているわけでもないですから。でも、やっぱりいろんな人から応援してもらっているから、その人たちを裏切りたくないです。感謝の心を忘れたらつぶれます。感謝して、向上心をもって、がむしゃらに頑張らないといけないと思っています。」真剣な表情の國武さんに、覚悟のようなものを感じました。

毎日をひたむきに

吉井町・千年小のすぐ近くにある可愛らしい外観のお店

<ライターズ・コラム>
オーナーである國武さんは、新商品の開発や、売り上げの把握、材料の発注などなど・・・1年中、膨大な量の仕事を抱えています。「大切なお客様が食べるもの」ですから、何か問題があれば作り手の責任。決してイメージ通りの仕事では無く、大変な仕事と言えるでしょう。けれど、そのケーキでお客様に「嬉しかった!おいしかった!」と言ってもらえる瞬間、その疲れや苦労も吹き飛ぶのでしょう。

最も大切なのは、覚悟なのかもしれません。國武さんは、「支えてくれている人を裏切りたくない」と言っていました。支えてくれている人の思いをちゃんと受け取る覚悟。「パティシエ」という職業でお店を持てる人はそう多くはありません。そう考えると、「地縁・血縁は國武さんを強く支える柱」です。

そして、常に向上心を持ち続けることも重要なのですね。「お店がオープンしたからといって、そこがゴールではないと思います。嬉しい、おいしいケーキを提供できるように努力し続けられる人でなければ、お客様もやがて離れていってしまう。」とおっしゃっていました。その危機感を常に持ち続ける事、そのこわさに向き合っている事。ご本人は謙遜されていましたが、かなりの覚悟がいることだと感じます。朴訥とした佇まいの國武さんですが、熱い気持ちがじわじわと伝わって、刺激的なインタビューでした。

<店舗情報>

〒839-1304
福岡県うきは市吉井町千年251-4
電話番号 0943-76-2577
営業時間 9:30〜19:00
定休日 火曜日(祝日の場合は翌日)
駐車場 有(3台)
http://www.nature-ukiha.com/

https://goo.gl/maps/aEHibXWbMCgjoN9U8