ガラス窓をのぞいて見れば、
珈琲と文化の香りがする。
うきはのカルチャーベースを目指して
Case.4
白壁通りから一本路地に入った場所にあるレトロな2階立てのビル。道に面した大きなガラス窓から中を覗くと、店舗の半分は書店、半分はカフェになっていて、絵本を選んでいる親子、マフィンをかじりながら文庫本を読みふける人、おしゃべりに花が咲くマダム達。まるで群像劇のワンシーンのように様々な人々が思い思いに過ごしている。この風景こそが、MINOU BOOKS&CAFÉのオーナー石井さんが思い描いたものだと言う。「僕はもともと本よりも本屋さんが好きだったんです。本屋さんって好きな時に入って、好きな時に出てもいい。買わなくても何も言われないし、扱う本も来る度に替わっているのでいつ来ても変化がある。あと本屋さんだったら何でもアリと言うか、いろんな意見が本という形で並んでいる。そんな空気感が好きでした」
石井さんは最初から本屋を目指した訳では無く、きっかけは6年間勤めた福岡市天神のブックカフェ時代に遡る。「店では個人出版や海外の少部数の出版物をよく扱っていたのですが、編集や構成がすごく自由で枠にとらわれていないんです。そこから、本って面白いと思いました」その後、仕事を辞めてから最初の1年はアメリカの西海岸や京都、四国、茨城と各地の本屋を巡り、イメージを固めながら一度実家のあるうきは市に戻る。「出店する場所は色々と考えていたんです。でもいざ出店する場合、都会だと建築物も流行によって移り変わりが激しい。やるんだったら長く続けたいし、いずれは戻ろうと考えていたので地元で物件を探しました」
「うきは市って自然があって食べ物も美味しいんですけど、自分が行きたい本屋さんが無い。それなら自分で作れば好きな仕事もできるし、地元も楽しくなるかもと考えました」
扱う書籍のラインナップは、衣食住に関わるもののほか、思想や哲学、芸術なども揃える。個人の思考や思いを喚起してくれる本こそが日々の暮らしの根底にあると考えるからだ。のんびりとした時間が流れるこの店には、それらの本がしっくりと馴染む。「最初は本のジャンルについてイメージはあったのですが、今ではお客さんからの問い合わせに応じて少しずつ内容を変えています」このごろは石井さんのセレクトとお客さんの要望がマッチする事も増えてきたそうだ。
オープン後、特に驚いたのが、客注、すなわちお客さん側の要望で取り寄せる本が増えた事。「ご年配の方だとネットは難しいし、大きな書店は遠い。直接お店に新聞の切り抜きなどを持っていらっしゃる方も多いんです。こんな小さい本屋でも最低限のインフラはあるので、うまく利用してもらえれば嬉しいですね」地元の人々との交流も、新たなやりがいを生み出してくれる。「小学生の友達もできました。店の前の通学路を通って学校に通うのですが、毎日手を振ってくれます」その友達は、お店の宣伝もしてくれるようで、店の向かいの建物の壁にかかった黒板には子どもの字で「マフィンがおいしいよ。ブックカフェをよろしくね」の文字が。子どもたちと石井さんとのやりとりが眼に浮かぶようで、思わず笑みがこぼれてしまう。
オープンして約1年半。今では遠方からも多くの人が訪れ、憩いの場所として定着してきたかに思われるMINOU BOOKS&CAFÉ。昨年は古本のイベントも開催した。「僕は、住民が持つ本はその街にとっての知的財産だと思うんです。だから古本をそのまま処分してしまうより、今まで蓄えられた知的財産として街の中で循環できたらと考えています。そこで、市内10箇所ほどのスポットに交渉して、それぞれの場所で古本を売ってもらいました。本はそのスポットの人の持ち物や集めた本を並べて。街を巡る古本市という形式ですね。この取り組みは毎年開催したいし、いずれは、お店として古本を扱いたいですね」日々の交流を育む中で次第に大きくなる地元への思いが、石井さんの本屋としての新たな一歩を後押ししてくれているようだ。
店名の由来は「耳納連山」のふもとにあるブックカフェというイメージを込めた。地元に戻ることを考えた時、四季折々の自然を身にまといながらも、常にうきはの風景の中にどっしりとそびえる山々の姿が浮かんだという。石井さんにとって、地域に根ざす象徴なのだ。
<店舗情報>
店名:MINOU BOOKS
WEB:https://minoubooks.com
FB:https://www.facebook.com/minoubooks
うきは店
住所:うきは市吉井町1137
営業時間:11:00〜18:00
定休日:火曜・金曜
久留米店
住所:久留米市小頭町10-12 1F
営業時間:11:00 – 19:00
定休日:火曜