Case.19

株式会社SASAKI|佐々木 貴紀さん&家具職人・大工|上野祥行さん

Uターンで出会った“相棒”と共に
可能性無限大の南洋材の世界へ

文:大内理加 (大内商店) /
写真:Shintaro Niimoto (studio SARA)

南洋材で作った花器の第一号。もともとは『いつも佐々木さんにお世話になっているから』とお礼代わりに作ったそう。一作目なのにこのクオリティに驚く

生まれ育った土地で見つけた
新しい作品と新しいパートナー

故郷に戻って働くことは、決して安定した選択肢ではない。もしかしたら、他の土地に飛び出すよりも、ずっとスリリングでワクワクするような世界が広がっているかもしれない。株式会社SASAKIの後継ぎとなった佐々木貴紀さんにとっても、木工を生業に選んだ上野祥行さんにとっても、地元であるうきははそんな場所だった。そんな二人が出会ったのもまた運命的だったのだと、彼らが手にした不思議な作品を見て思う。
さまざまな色や質感を持つ木材が、まるで元々そうであったかのように違和感なく組み合う。なめらかな線を描く花器は、シンプルであるけれども想像力をかきたてる。まるで佐々木さんと上野さんそのものではないか。

ご両親の話をする時も上野さんの時と同じく尊敬に満ちた眼差しを見せる。上野さん曰く「純職人」という佐々木さんのお父様のエピソードもまたおもしろい

予想もしなかった2代目の道
両親の働く姿に背中を押されて

佐々木さんが2代目を継ぐ「株式会社SASAKI」は、物流をサポートするパレットや梱包枠、木箱などをオーダーメイドで請け負う製材会社だ。もともと地元に戻るつもりはなかったという佐々木さんが、うきはで働くことを決めたのは8年前。

佐々木さん:「うちの父はとても手先が器用で、いろんな知識も持っているんです。僕も小さい頃から、無いものは自分で作るという考えを叩き込まれてきたんです。僕が小学校の時、父がロボットを作ってくれたのが忘れられなくて、大学ではロボット工学を専攻して技師になるつもりでした。でもある時、帰省中に両親が自分たちの代で会社を辞めると話していたのを耳にしたんです」

幼い頃から憧れてきた両親の背中にふと寂しさを感じて、いてもたってもいられなくなった佐々木さん。悩んだ挙句に会社を継ぐとご両親に告げた。

「父親はものすごく喜んだのですが、母は『あんた、事業主になることがどんだけ大変か分かっとるとね。お客さんもおるし、従業員の家族まで背負っていかないけんとよ。死にたくても死ねんよ』ってものすごく脅されました。確かに重い決断ですけど、今まで両親が夜遅くまで必死こいて頑張ってきたのを見ているわけじゃないですか。これで終わらしていいんかと思って覚悟を決めました。働きだして数年経った今は、母が言っていたことの意味を実感しています。それでも毎日がとても楽しい」

家業を継いだら見えてきた
製材用の南洋材を使ったモノづくり

佐々木さんが後を継いでから、先代であるお父様への見方も変わってきた。
「父親が職人肌で、妥協は許さない、いいモノを作っていれば必ずお客様はついてきてくれるというスタンスだったんですね。それはすごくカッコいいんです。でも昔の人だから、せっかくの技術を周りに伝えていくこと知らなくて。僕が自力でホームページを作り、九州以外の名古屋や関西からもご注文をいただけるようになりました。それだけではなくて、今の業態以外にも何かやってみたいと思った時にヨシさん(上野さん)と出会ったんです」

当時、うきはの建築&家具製作の「デコワークス」で働いていた上野さんは、株式会社SASAKIで製材用に扱っていた東南アジア原産の南洋材を全く別の方法で使うことを考えた。木の色や質感の多様性に着目した新たなモノづくりのスタートだ。
その前に、上野さんがうきはに戻るまでのエピソードも振り返ってみよう。こちらも中々刺激的だ。

上野さんは学費を稼ぐため一般企業に営業として入社したところ、ストレスで急性胃腸炎になったという。
『大工に戻った時は、会社員時代より給料は1/3、労働時間は3倍になったけど、ストレスは全くなかった』。根っからの職人なのだ

海外生活の果てにたどり着いたのは
懐かしくも新しい、故郷うきは

上野さんのルーツは、子どもの頃にできた自分の部屋でインテリアに凝りだしたのが始まり。18歳から福岡の専門学校へ。最初は外装を専攻していたが、ショップデザインの授業で内装の面白さに気づいた。学校に相談すると、什器大工なら店舗デザインや家具も勉強できると言われ、現在の道を志すことに。
「もともと什器大工として独立しようと決めていたんですよ。でもその前に海外も行きたいなと思って。当時のお師匠さんに5年間で教えてくれってお願いして、その後ワーキングホリデーを利用して約4年半海外にいました」
カナダに1年、そこから色々な国をはさんでオーストラリアに2年半滞在してセンスを磨いた。
(その間の海外放浪記はものすごくおもしろい。が、あまりにも波乱万丈すぎて長くなってしまうので、いつか別の場所でお披露目したい。もしご本人に会ったら、ぜひ聞いてみてほしい)

「もともとドイツの建築技術を学びたかったのですが、あちらではドイツ語か英語で授業するんですよね。だから、まずは英語を学ぼうとカナダとオーストラリアへ行くことにしました。どうせ海外に行くなら木工以外の仕事もやってみようと、カナダではビルメンテナンスをしましたし、オーストラリアも最初の方は農園で働いていたんです。でも3年目くらいにどうしても木に触りたくなって、店舗・空間デザインの会社へ。その時に海外で見た建築のイメージは今でも役に立っているんですよ。その後、次こそドイツに行こうと一時帰国した時に「MINOU BOOKS&CAFÉ」の石井に『おもしろいお店を作る人がいるよ』ってデコワークスの原嶋さんを紹介してもらったんです。デコワークスでも南洋材を使っていて、デザインがすごく新鮮でした。ここで働きたいとドイツを蹴ってうきはに戻ったんです」
降って湧いたように訪れたタイミングの中、上野さんは地元で働くことを決断する。
その話を一番興味シンシンに聞いていた佐々木さんは言う。
「僕もうきはに帰ってきたら色々な人に出会えて、改めてこの土地が好きになりました」。
上野さんも「うきはすごいよね。いい意味で変わった人が多いよね」とうなずく。
その、“いい意味で変わった人たち”に自分達も含まれていることに二人は気づいているだろうか。だって、南洋材を使うこと自体、普通の発想じゃないのだから。

花器以外にも内装や家具などにも南洋材を使いたいとアイデアを話す二人。
『上野さんが手がけたmielさんのカウンターもすごいっすよ!』など、まるで自分のことのように話す佐々木さん。

南洋材は難しいからこそおもしろい
木工ユニットの作品に乞うご期待!

佐々木さんの会社で扱う東南アジアの南洋材は通常、梱包材や重量物の土台などに使われる。
佐々木さん
「南洋材は、よく大工泣かせって言われるんですよ。とにかく硬い」
上野さん「機械がダメになるくらい硬いんです。南洋材を作品で使う人はまずいないですね。僕は歯を喰いしばってやりますけど」
佐々木さん:「もう気合ですね(笑)」
上野さん:「時間がすごいかかるんですよ。失敗すると欠けるどころか割れて使い物にならなくなるし、機械の歯もすぐ取り替えんといかんし。それでも南洋材はおもしろい。普通木の色ってそれほど差が無いでしょ。でも南洋材は赤いのから黒いものまで色の違いがはっきりしている」
佐々木さん:「それなのに無着色ですもんね」
上野さん:「そう、だから品が出るんですよ。柔らかい木も硬い木も同じオイルを使っているんですけど、南洋材は深みのある色合いになるんですよ」
佐々木さん:「ひとくくりで南洋材って呼んでますけど、硬さも色も全然違うんです。SASAKIでは約100種類使っています」
上野さん:「この花瓶だけでも9種類使っていますもんね。組み合わせの可能性は無限にある。僕は見て飽きないものを作りたいから、表情が豊かな南洋材を使いたいんです」

確かに、上野さんの作品は、新しいのに艶やか、それにアンティークのような味わいもある。見る方向によって全く異なる表情が現れる寄木細工のようなデザインも興味をそそる。上野さんによると、3Dの寄木細工になっていて、一個だけでは制作できないのだそう。本職の人にもその構造は掴めないとか。
上野さん「寄木すぎて、平面は難しいんですよ。今のところしっくりきているのは花瓶ですが、これから形も増やしていく予定です。それに寄木以外のデザインも模索中です」
佐々木さん「上野さんが作っているところ、実は見たことないんですよね。
僕は材料をヨシさんに進めるだけなんです。こんな面白いものがありますよって」
上野さん「餅屋は餅屋ですからね。南洋材に関しては佐々木君に相談しています」
佐々木さん「うちの南洋材を家具とか店舗関係で使っていただいて、この近辺にヨシさんが作ったものが増えていくと嬉しい限りですよね」
上野さん「楽しみにしていてください」

まるで遊びの計画を立てるように、目を輝かせながら話してくれる佐々木さんと上野さん。上野さんの発言の度に佐々木さんが一番いい反応を返し、それに上野さんが嬉しそうに返す。「多分、仕事じゃなくても友達になってた」「他人ということを意識しないくらいラク」「もう出会う運命だったんですね」知り合って数年経っても、お互いへの尊敬は全く揺らいでいないのが見ている方にも分かる。
二人にとってUターンして手に入れた一番大きなものは、新しいビジネスパートナー、いやかけがえのない“相棒”なのかもしれない。

【お店からのお知らせ】

企業名:株式会社SASAKI
WEB:https://www.sasakiwood.com
住所:福岡県うきは市浮羽町山北783-435
TEL:0943-77-8121
営業時間:10:00〜20:00
定休日:日曜・祝日

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